Column|還付金詐欺
数年前の三月上旬に、ある電話が入った。私が住む区役所からであった。「XX区役所YY課の○○です。二月末が締め切りのもので、約2万円強の還付金があります。書類の手続きをしましたか」、というものであった。変だなとは思ったが、その種の書類が届いた記憶がない旨を伝えた。
電話は続く。「期限が過ぎていますが、今、手続きすれば、返金されます。二万何某円」とのこと。怪しげだったので、「必要ならば担当課に出向きます」と答えた。なぜ怪しげだと感じたかと言えば、この種のことは電話ではなく、書類で来るものだ。さらには、私は仕事柄ゆえ、自治体職員とは長年にわたり、直接やり取りをしているので、その応対や言動の特徴は体感で熟知している。ところが、かかってきた電話の主は、若者口調でぞんざいであり、自治体職員の丁寧な話しぶりとは大いに異なっている。
件の人物は、最後には、利用している銀行名と口座の種類などまで、早口でいろいろ質問してきたが、私に不審者とみなされた、と感じたようである。「今日は、変な電話がかかってきたということで。あーばよ!」と捨て台詞を残して、電話を切った。
私は、「必要ならば担当課に出向きます」と繰り返し答え、どんな手口なのかを観察するために、不審な電話を聞いていた。これで相手は断念したのだろう。私は、その後すぐに区役所担当課に電話をし、当該人物がいるかどうかの確認と、不審な電話があったことを伝えた。担当者によれば、最近この種の案件が二件あったとのことであった。
さっそくネットで調べると、いろいろでてくる。「還付金詐欺」という名称をその時に知った。現実のやり取りとそっくり同一の台詞が事例として紹介されている。近年のコロナウィルスに関わる給付金についても、不正申請などの給付金詐欺が絶えなかった。私が経験した還付金詐欺にまつわる感想は次の通りだが、さまざまなメディアを通じて忍び込んでくるので、始末が悪い。。
・公式手続きは、書類で来るものだ
・詐欺師は言葉巧みなので、電話は疑ってかかる
・世の中、詐欺まがいの案件で満ち溢れている
・皆さん、気をつけましょう
生老病死は人間の常であり、人生に苦労はつきものである。そこに付け込んで、悪知恵の働くものどもは、儲け話、体によい薬など、あれこれ、不正な方法でつけ入ろうとする。人生の心構えの一つとして、「用心」もまた必要である。
著者:金安 岩男 (慶應義塾大学名誉教授)
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。