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先日、円山応挙(1733-1795)の特別展を見るために、東京の青山にある根津美術館に出掛けた。展示作品の多くは個人蔵からなるが、国宝の「雪松図屏風」、重要文化財の「藤花図屏風」、「七難七福図巻」、などの展示もあり、特別展ならではの見ごたえがあった。外国人客も多く、その評判が行きわたっていたようである。特別展のテーマは、「『写生』」を超えて」であったが、応挙による「写生帖」などを見れば分かるように、まさに写生を超えて自然の真実を表している。写生の対象となる動植物などの自然と傑出した画家との会話が一幅の絵になり、後世の私たちを楽しませてくれる。
根津美術館は中国古代の青銅器や茶道具などの収集物でとくに有名である。この美術館の庭園も、規模こそそれほど大きくはないが、都心の一等地にあることを考慮すると、すばらしいことが分かる。1906年に根津嘉一郎(東武鉄道初代社長)が旧河内丹南藩高木家下屋敷を買い取り、日本庭園に仕立て上げたものである。日本庭園は、自然を生かした「人為的な自然」とも言える。庭園の紅葉を楽しみつつ自然に対する関心が増したところで、美術館をあとにして、知人の出版記念講演会に向かう。講演会場は、京橋にあるガラス張りの2010年建築の現代的なビルの中にあった。ここは、自然とは対称的な人工構築物である。
知人は、長年建築設計の仕事に従事し、定年退職後も非営利組織を立ち上げ、活動を継続している。それだけでもえらいことだと思うが、2011年3月11日の東日本大震災の事態に思い立ち、建築の立場から、津波被災地の復興構想の提案を練ってきた。その考えが一冊の本にまとまり、『階上都市 津波被災地域を救う街づくり』と題して刊行された。提案の骨子は、「横に逃げるのではなく、縦に逃げよ」である。そのために必要となる条件、段取りなどを提示し、実務家らしく概算の見積額まで示している。印象としては、南仏のラングドック・ルシオン地方の海岸沿いの高層住宅のイメージである。
表題に添えられている英文題名は、’The Elevated Town: High Rise Living in Tsunami Regions’(文字通り訳せば、 階上都市 津波被災地域における高層生活)とあり、物的施設とソフトな生活対応とがひと組になっている。私のイギリス在住の教え子が、イギリス人と相談した上で考えた英語表現の助言を参考にしている。英文題名をあえて添えたのは、著者曰く「いつかは世界に発信したい」との考えからだった。
人類の歴史は、自然の脅威との闘いの歴史であり、世界中のどこに住んだとしても危険はつきものである。私の東北大学時代のかつての同僚たちが作成した地形図によれば、縄文時代の海岸線と3.11による津波到達線とは一致している。「自然」は、何万年、何億年前から存在しているので、自然と言えば自然なことである。ということは、数十年ごとに発生している津波から、私たちは逃れることはできないということである。
私は、人々が住みかつ活動する上で、よりふさわしい適地探しを続け、リスクを軽減するように行動するしかないと考えている。これからも、自然とどのように付き合ったらよいかの模索は、人類がある限りずっと続く。自然、人為性、人工構築物など、自然観の再考を求められる秋の一日となった。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
