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大人にとっては当たり前のことでも、子供にとっては知らないことは沢山ある。逆に、子供にとっては自明のことでも、大人は何も知らないということもある。<知ってる、知らない>の違いがあるから世の中は面白い。今回は、知っている人には当たり前のことでも、初めて知った人間にとっては興味深い例として、私にとっての新宿発見をご紹介する。
東京の新宿区(人口約三十三万人)は、新宿駅の乗降客数が一日に四百万人近くいて、西口の高層建築物、東口の商業施設、歌舞伎町の夜の賑わいなど、その知名度は、国内外で抜群の町である。外国人居住者も三万人程度と区人口の約一割を占め、観光客の来訪者数もすごい勢いで増加している。街を歩けば多くの外国人に遭遇するといった趣である。そんな誰でも知る新宿は、意外にも居住地として静かな地域もあり、歴史的に由緒のある場所も数多く、散策などを楽しめる。かの夏目漱石が生まれかつ住んだ住居も新宿区内にあり、生誕百五十周年を記念した「漱石山房記念館」も現在建設中である。
新宿区の西側に位置する住宅地の落合地区には「おとめ山公園」があり、樹木が豊富で、ホタルが飼育され、泉や池などもあって、憩いの場所として区民に親しまれている。この「おとめ山」であるが、「乙女」ではなく、「御留」に由来する。音を聞いただけでは分からない。これは江戸時代に、将軍の鷹狩などに使われた場所で、禁猟区だった所である。現代の辞書には、「御留場」なる単語が記載されている。
「御留」がらみで、山に次いで川に因んだものとしては、次の川柳がある。
紫を人の奪はぬ御留川
この川柳に出てくる単語がすべて分かっても、川柳が言わんとする真意はなかなか理解しづらい。これは川柳によくあるように、論語の「子曰く、紫の朱を奪うを悪む也」(中間色の紫色が正色である朱色を乱してしまう意)、を活用した川柳となっている。紫色の鯉がこの江戸川(現在の神田川で、JR飯田橋駅から北に向かう方角が上流になる)にいるが、ここは将軍の禁漁区なので、鯉を獲ることができない御留川ですぞ、という意味。川柳にうたわれるぐらいだから、当時の人々にとっては、誰でもが知っている言葉だった。
「御留」と言う言葉自体が、将軍がらみの言葉なので、現在ではほとんど死語と化している。ところが、作家、俳人、脚本家として著名な久保田万太郎(1889-1963、文化勲章受章者)の聞き書き(龍岡晋『切山椒』)によれば、「お留筆」なる万太郎の発言があり、私の目に留まった。江戸時代のお抱え絵師は、金持ち町人から鷹や虎などの絵の注文に追われがちである。そんな時、将軍がこれで終わりにせよ、との命令を発することがある。そのことを「御留筆」と呼んでいる。1904年生まれの聞き手である龍岡晋(役者で文学座の社長を経験)ですら、「お留筆って?」と万太郎に問い返している位の単語である。
「御留山」、「御留川」、「御留筆」など、今や死語となっているような言葉でも、その背景を知ると、実に味わいが出てくるし、面白いつながりも生まれる。結果として、私にとっての新たな新宿発見ともなった。言葉は生き物なので、大切に、そして仲良く付き合っていきたいと思う。そのことが自身の教養を高め、人とのコミュニケーションを豊かにする。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
