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ここ数年は、広島県の委員をやっている関係で、毎年夏は会議のために広島県に出掛けている。ある日、広島での会議終了後に尾道に足を向けた。知人が尾道の各種イベントや空き家再生などの地域開発プロジェクトにかかわっているとのことで、尾道で合流し、レンタカーに同乗させてもらうことになった。
尾道からは、二時間ほどの予定で瀬戸内しまなみ海道を走り、また尾道に戻った。いつもは私自身が運転者となるが、運転しながらでは周囲の眺めをゆっくり楽しめない。今回は助手席からなので、瀬戸内海の風景をよく観察できた。因島大橋など、デザインの美しい橋を見つつ、車は快適に走る。巨大な人工構築物は嫌がられることもあるが、自然景観を引き締める効果もある。生口島にある瀬戸田という小さな町の外観を見て回る。ここは画家の平山郁夫の生誕地で、平山郁夫美術館もある。柑橘類の花や果実が見られ、風光明媚な所にあるシトラスパーク瀬戸田が数年前に閉館になっていたようで残念だった。
運転してくれたUさんが、これら瀬戸内海の景観をどう思うかと尋ねてきた。良い質問である。景観が美しいことは言うまでもないが、どのようにしてこの美しい景観が作られたのかについては、私も十分な知識を持ち合わせていなかったので、その分野の専門家の力を借りる必要がある。そこで、帰宅後に少し論文などに当ってみた。
大昔には、現在の瀬戸内海には備後灘気水湖が二つあっただけで、中国地方と四国地方とは陸続きだった。その証拠に、ナウマン象の骨や鹿の骨などが漁師の網にかかることがある。中国地方と四国地方という二つの隆起帯に挟まれた瀬戸内海は、陥没、沈降地帯であり、数次にわたる沈水と陸化を経て海となった。約2万年前に最終氷期が終わり、大陸の氷河が解け、100mほどの海面上昇が起こった。陸地だった所には海水が入り、現在見るような瀬戸内海の多島海景観がうまれた。
この地域では、万葉集にも歌われているように、ある時代から製塩業が盛んになったが、高塩分の水を煮詰めるためには大量の木材が必要だった。中国・四国地方の潜在植生であるシイやカシの木は伐採されて、島々ははげ山になってしまった。残った花崗岩のはげ山は風化浸食されやすく、風化された花崗岩は砂状の「マサ」になり海に流れ、白い砂浜となった。痩せた土地には松林位しか生えない。これが瀬戸内海の「白砂青松」の誕生物語となる。
このようにして形成された自然の海に魚介類も増えて行ったが、沿海部の埋め立てによって、藻場、干潟、自然海岸などが減少していった。1909年から1994年までの間に、瀬戸内海の海域面積は約680平方km減少した、との海上保安庁の調査結果がある。また、1950年代後半からの高度経済成長の時期に、大量の海砂が採取された。その結果、海底は砂から礫や泥に変わったばかりか、水質環境も悪化してしまった。生き物たちも大変である。自然あっての人間の営みなので、自然との折り合いは良くする必要がある。
太古からの大陸や海の形成を振り返り、今後の地域のあり方などに想いを馳せる。実に、時空を超えた感覚を呼び起こす瀬戸内訪問となった。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
