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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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私たちは、時の流れをつかみたい時に、過去がどのようであり、現在どうなっているか、そして未来はどのようになりそうか、と考える。つまり、<過去・現在・未来>の三段階の順でとらえようとする。経済で言えば、基礎的な理論をもとにして、過去を振り返る経済史や経済学説史、現在の実態に関する経済分析、そして将来に関する経済予測や経済政策などが相当する。

リチウムイオン電池を発明し、2019年のノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんが、最近の「私の履歴書」(日本経済新聞2021年10月9日付)に、カラオケで歌うお得意の愛唱歌と<現在・過去・未来>(順番に注目!)のことについて触れていた。その歌とは、歌手の渡辺真知子作詞によるデビュー曲にしてヒット曲ともなった『迷い道』である。「ひとつ曲がり角、ひとつ間違えて、迷い道くねくね~~」という歌詞が研究開発と似ているというのである。吉野さんは、曲の歌い出し「現在・過去・未来~~」を初めて耳にした時、「なぜ、過去・現在・未来ではないのか」と不思議に思ったそうである。

未来を見据えた研究テーマに取り組んできたが、研究に行き詰まり、『迷い道』の曲が流れてきて、歌詞の通りに過去に戻ると電池に目が留まった。「そうか!まず現在からではなく過去にまで遡って未来をみることが大切なんだ!」と気がついた。リチウムイオン電池の研究がまさにそれだった。それがノーベル賞への道となった。

渡辺真知子の歌い出しである<現在・過去・未来>の順番が自分の研究人生と合致するという。自分の研究を振り返ると、奮戦中の現在からは見えにくいものも、過去を振り返ると、未来を見通す事柄が見えてくる、との指摘である。そのように理解している旨、直接渡辺真知子に伝えたところ、「ほぼご想像の通り」と同意され、歌詞の深い意味にまた感心したとのことだった。

私はこの三つの言葉<過去・現在・未来>の順番について、別のとらえ方を興味深く受け止めたことがある。それは、私の大学時代の恩師の教えだった。恩師は、これからの情報社会のあり方を構想し、学問のあり方、大学キャンパスのあり方などを検討し、大学改革を進めたことで功績のあった学者である。過去・現在・未来をどのようにとらえたのであろうか。その主張は、未来から始まる<未来・過去・現在>の順番だったが、少しばかり説明が必要である。

私たちにとって、来る未来社会をどのように構想するかが大事である。どのような社会をつくりたいのか、どのような社会でありたいのか、私たちの希望や期待を明らかにする必要がある。「構想としての未来」として、構想力をもって未来を位置づけるのである。そして、過去を振り返るとどうであったのか。つまり、「事実としての過去」の再確認である。その上で、現在の仕組みなどをどのように変更、改革していったらよいかの戦略を考えねばならない。「戦略としての現在」である。「構想としての未来」、「事実としての過去」、そして「戦略としての現在」と並べた時の<未来・過去・現在>の主張は、戦略家としての切れ味を強く感じたものであった。

具体例で言った方が分かりやすいかもしれない。もし「来年はぜひとも家族で海外旅行をしたい」と考えたら、活動の理想としての未来像が決まる。過去はというと、これまでの国内外の旅行経験を振り返ると共に、休暇が取れない、予算が不足、どこを旅行したいかが不明確、等々、準備不足の過去(事実としての過去)があった。そこで、今年こそ、ボーナスで予算を確保し、旅行先の予習に努め、参加メンバーの日程調整などの準備をしよう(戦略としての現在)となる。

この「構想としての未来」から始まる発想は、2015年の国連サミットで締結されたSDGs(持続可能な開発目標のことで、エス・ディー・ジーズと読む)の掛け声に似ている。これは、2016年から2030年までの15年間で、貧困、飢餓、教育、平等など17からなる開発目標を達成するために努めようとの狙いである。私が学生時代から学んでいるシステム研究分野でも同様の考え方があった。システム論の大家であったラッセル・エイコフは、その考え方を「理想化設計」と呼んだ。つまり、まずはどのようでありたいのかの理想を掲げる作業を行う(理想化の部分)。すると、その理想を実現するためには、現実の実態を変革しなければ実現できない。だから制度や組織、そして予算などを組み替えることにしよう。ルールも変更しなければいけないかもしれない、等々となる(改革、再設計の部分)。

時代は変わっても、考えることはどこか似ている。過去、現在、未来にまつわる考え方の違いは、私たちにとって大事なことは何なのかを追求した結果であり、歴史は繰り返えされているのかもしれない。



(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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