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夏目漱石といえば日本を代表する作家であり、誰でも一冊や二冊は読んだ経験があると思う。我が家の書棚にも漱石の作品ならびに解説書などが何冊かある。最近、「漱石山房記念館」が開館(2017年9月24日)したので、早速訪ねることにした。今回はその訪問記である。
漱石山房記念館は、住所で言えば東京都新宿区早稲田南町7番地にあり、交通は地下鉄東西線の早稲田駅下車で徒歩約10分の所にある。記念館に行く前に、まずは蕎麦店で手打蕎麦とかき揚で腹ごしらえをする。前回のコラムが蕎麦の話だったので、情報を増やしておくことが大事と考えたからである。食後に、蕎麦は痩せた土地に育つとよく言われているが、と蕎麦店主に聞いたところ、必ずしもそうではないとの返事。土にはある程度の栄養分は必要とのことで、蕎麦にまつわる話をいくつか教えてくれた。さすがプロの話だと参考になった。
次の訪問先は宗参寺である。この寺は、この地域を治めた大胡氏(牛込氏)が建てたもので、大胡氏の墓ならびに兵法家の山鹿素行の墓がある。大胡氏の牛込城は、神楽坂の日本出版クラブ会館の向かいにある光照寺の所にあった。「うしごめ」、良い響きの地名だ。新宿区内には、結構昔の地名が残っているので気に入っている。その後足早に漱石記念館に向かう。新設の漱石山房記念館が立つ以前は、新宿区立漱石公園と区営住宅が建っていた。この土地は、漱石が『三四郎』『それから』『門』などを執筆し、晩年を過ごし終焉を迎えた地であり、「木曜会」と称して多数の門下生の集いの場所となった。私はこれまでに漱石関係の書物を読み、各種の夏目漱石展などにも行ったことがあったので、おおよそのことは知っているつもりであった。しかし、漱石のかつての住まいがあった所となると、また感じ方も変わってくる。
漱石は、幕末の1867(慶應3)年に、江戸牛込馬場下横町(現在の新宿区喜久井町)に生まれ、1916(大正5)年に49歳で永眠した。よって日本の近代化と共に歩んだ人生だったと言える。漱石の年表を眺め、復元された書斎を見学し、自筆の原稿、書簡や俳画、書物の装丁(橋口五葉担当)などを見ていると、実に深い味わいを感じる。漱石が利用した長襦袢も展示されているが、これは孫の半藤末利子さん(記念館の名誉館長)からの寄贈である。この種の施設は、多くの人々の善意に支えられている。展示室以外にも、図書室、講座室、喫茶室、記念品売り場なども併設されており楽しめる。新宿区に良き文化施設が誕生したが、これからこの施設をどのように育てていくかも大事である。
漱石作品への入口としては、随筆の『硝子戸の中から』などは小品で読み易い。鏡子夫人の『漱石の思い出』や半藤末利子さんの随筆(『漱石の長襦袢』)などから入るのも、一法である。夏目漱石の評論で文壇デビューをし、文芸評論家として活躍した江藤淳さんからかつて話を伺ったことを思い出した。江藤さんは、新聞に連載された漱石の小説を、書物ではなく連載時の新聞を手にして読んでみた。すると、当時の社会の出来事と同時進行で漱石の小説を受け止めることができたとのことである。これも一つの工夫であり、自分なりの工夫をして、ものごとの理解や解釈に努めることが大事なことを教えてくれる。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
