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どの職業にも言えることと思うが、仕事をするためには道具、原材料、そして作り方の三点セットが必要である。とりわけ、職人さんにとって道具は命であり、優れた職人さんであればあるほど、自分自身用の道具を作る能力を持ち合わせている。長年東京の大田区で旋盤工の経験があり、ものづくりに関する著作の多い作家の小関智弘さんは、職人さんの特徴は何かと問われて、「職人は道具がつくれる」と明解な指摘をしている。今回は、道具づくりのお話である。
大学の学部生と大学院生を分ける基準は何かといえば、大学院生は研究者の卵として扱われるということが挙げられる。研究者となれば、研究者独自の方法や手法を示すことが要求される。それはどのようなことを意味するのだろうか。すでに誰かが開発済みの方法や手法を現実の場面に適用してみるというのは、一つの研究の取り組み方である。しかし、自分自身で開発した方法(「道具づくり」ということ)を構築できたら、その方がより高く評価される。それは、誰もがより高度な方法を構築できるわけではないからだ。
もう大昔の話で恐縮ではあるが、現代では一般化している「地理情報システム」(GIS)の草創期の話である。私は、当時(1970年代後半のこと)「地理情報システム」構築プロジェクトのリーダーの役割を務めていた。この地理情報システムは、地域の情報に関するデータベース、データの入力、データ解析手法、結果の出力、これらを統括する利用管理システムからなる。現在では、ウェブベースのGISの利用も可能な時代となっているが、当時は大型コンピュータと充実したソフトウェアがなければ実現が困難だった。また、すべての技術開発をするとしたら、膨大な作業量となるので大変である。
そこで、私たちのチームは、既存の技術の蓄積を利活用することにした。そのためには、それらいくつかの技術資源を結びつける技術(インタフェース技術)を駆使すると効率が良い。私たちのチームが試み、開発したパイロットシステムにより、ほぼ休眠状態だったといえる膨大な国土のデータベースを利用する一つの道筋を示すことができた。莫大な税金を投入して作成したデータでも、活用されないとしたら、税金の無駄遣いになってしまう。そこで効果的に利活用できるシステムを構築できたので、大いに社会貢献できることが示せたと思う。
工学系の分野であれば、眼に見える形で「何かを作った」と説明がし易いが、人文社会系の分野では、「つくる」という意識が不足している。しかし、人文社会系の分野でも立派に「つくる」作業に参加することができる。「サービス」分野も、ソフトな活動ではあるが、「つくる」ことに参画している。法律を制定する、経済の仕組みをつくる、経営の方策を考える、日常の暮らしを工夫する、等々、様々な分野で、何かをつくり出していることに気づく。改めて「つくる」意味を問い直すことが大切だと思う。
身近なちょっとした工夫の蓄積が一つの方法となり、その人の個人的な財産になり、さらにはチームや組織の資産になれば、それは素晴らしいことである。上手な人ほど、道具を大切に扱い、道具づくりに努力する。道具づくりは方法の開発を意味するので、方法に学び、方法論を体得することが肝要である。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
