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書誌学者にして作家として活躍している林望さんの著作に『イギリスはおいしい』がある。イギリスの食文化を紹介した随筆として話題を呼び、随筆の賞も受けている。私は、料理方法、材料、そして料理人の基本三点セットに、食事場所や会食する人などが醸し出す良好な雰囲気が加わればどれもおいしい、と思っている。私も1980年代半ばにケンブリッジに滞在し、研究生活を送ったことがある。四軒続きの一階と二階からなるテラスハウスを借りて住んだが、家はケンブリッジの南端にあった。庭に面する空間は隣接する語学学校の馬場だったから毎日馬を眺め、時々野兎がやってくるのを観察した。遠くに目をやれば、ゴグマゴッグの丘がのぞめた。二人の子供は、夏には庭のビニールプールで水遊びに興じ、家族にとっては抜群の住宅環境だったといえる。
私は研究生活に没頭していたから最低限の生活知識しか得られなかったが、私の家内は育児を通じて、子供たちが通ったプレイグループでの交際など、イギリスの日常生活をかなり体験したようだ。その経験から得られた知識は、なかなか興味深いものがある。ある時、コミュニティが実施している料理教室に通いたいのだが、と相談を受けた。開催時間に合わせて、家族の時間調整が少しだけ必要だったからである。私個人は料理の結果、つまりおいしい食べ物にありつけるのならば何ら反対する理由はない。喜んで妻を料理教室に送り出した。
ところが、数回参加したら、料理教室を止めたいと言い出した。その理由は、毎回の終了時点で、料理の先生が次回に持参すべき材料を口頭で指示してくれるのだが、早すぎて聞き取れないし、ついて行けないとのことだった。私は、頑張って続けるように激励した。その内に、教室参加仲間の年配のご婦人Aさん(元体育教師)が助け舟を出してくれて、材料名を復唱し教えてくれるようになった。記したメモを手にして、スーパーマーケットへ出かける。最初は置いてある棚の場所もよく分からなかったが、次第に、それらの材料が大きなスーパーマーケットのどこにあるかも熟知するようになった。この料理教室への参加は、イギリスの料理を知ることは勿論のこと、イギリスで友人を作り英語に慣れる上でも、大いに役立ったようだ。
そんな中で、我が家の向かいの一人住まいのおばあちゃんJさんに、家内が料理教室に行っているので、その料理を一緒に食べましょう、と夕食のお誘いをした。ところが、お誘いした当日は、いつもの時間になっても家内はなかなか帰ってこない。大分遅くなってから、疲れた顔をして帰宅した。
その日はチキン一羽分を使った料理で、中に詰め物(スタッフィング)が入った料理だった。少し焦げ気味だったのは素人料理のご愛嬌であったが、出来上がった料理はなかなかの味で大好評だった。その料理名が「ボウンド・チッキンboned chicken」であった。てっきり、骨付きチキンかと思ったが、骨抜きチキンのことだった。つまり、チキンの中の骨をすべて除き(ボウンドbonedということ)、除いた所に詰め物(スタッフィング)を入れたということである。だからこの日は大変手間のかかった料理に挑戦したことになる。料理に時間がかかったわけである。
第二次世界大戦での出来事などから、イギリスのある年代の人たちの対日感情は必ずしも良くない。食事会後は、おばあちゃんの気難しさも和らぎ、良くおしゃべりする関係になった。向かいのおばあちゃんを招いて和やかな夕食会になったその時の光景は、30年以上たった今でもはっきり覚えている。家内の料理の腕が上がったのは、続けよとの私の激励(「内助の功」?)があったからだと思うのだがどうであろうか。火力の強いオヴンで、あの味を再度味わいたいものだと強く思う。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
