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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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イノシシの話
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農林水産省の最近の発表によれば(2018年12月26日付)、死亡した野生のイノシシや捕獲された野生イノシシから、豚コレラの陽性反応の事例がみられたという。人間に感染することはないとのことだが、エサを求めて畑を荒らし、町中にも出没し、人に被害を加えるイノシシは、人間にとっては不都合な存在のようだ。2019年の干支にちなんで、イノシシの話題をご紹介する。

イノシシに関する論文を昔読んだことがあった。記憶はおぼろげであるが、確か北限は、宮城県の南部辺りだったと記憶する。その理由は、雪が深いと、イノシシは足が短いのでエサを得にくくなるからというものであった。宮城県の南部辺りならば、それほど雪は積もらない。真相は不明だが、一つの理由になりそうである。イノシシは、環境省の調査によれば、甚大な被害を与える鳥獣という名のもとに位置づけられている。イノシシの増加や北限の北進は、地球温暖化、中山間地域の荒廃、狩猟人口の減少などが、大きな影響要因だと考えられている。

私が宮城県仙台市にある東北大学で、東北地方の調査研究を行っていた頃の話である。宮城県南部に位置する丸森町に鉄砲撃ちの人がいて、イノシシを仕留めたことがあるとの話を、町役場の人から聞いた。そこで、料理人のMさんにこの話をした所、ぜひ現地をみて、その鉄砲撃ちの人に話が聞きたいとのことであった。料理人としては地元の素材を活用した料理を客に提供したいとの強い思いがあったからである。この料理人のMさんは、地元の造り酒屋さんが経営する評判のフレンチレストランの料理長であった。彼の父親が大使館や皇族のシェフを経験したことから、この料理長は幼年時代に大使館で育ち、そこが遊び場でもあったという。筋金入りのシェフと言えるプロの料理人である。そこで、私が事前に訪問先での面会の約束などの段取りを整えて、私の車で現地に向かうことにした。

鉄砲撃ちの話は興味深かったが、その人の話によればイノシシ狩りの手順は以下の通りとなる。複数の人たちで、谷を囲み、谷の上から山狩りをする要領でイノシシを追い立てる。すると、イノシシは谷の下方に逃げることになる。そこで、下方の位置で待ち伏せしていた人が、鉄砲で仕留めるという大掛かりのものだった。イノシシを仕留めることは結構大変で、最近は獲れていないとのことだった。鉄砲撃ちの人は、親切にも、保存してあったイノシシの肉を、帰り際におみやげとして分けてくれた。

料理人のMさんを職場であるレストランまでお送りしたが、これからいただいたイノシシの肉を調理するので少し待って下さい、とのことだった。しばらくしてから、最高級の腕前を持つ料理長の調理によるイノシシ料理が出てきた。食してはみたものの、肉はかなり硬めで、残念ながら私は食べ切れなかった。結論的に言えば、安定的に肉の供給が出来ないので、レストランのメニューに入れることは不可能ということになった。

イノシシのフランス料理はすでにあるが、もしそれが仙台で実現していれば、シェフにとっても、レストランにとっても、そして地元のお客さんにとっても、目玉の一つになっていたかもしれない。また私個人としては、橋渡人として、地域の魅力づくりに貢献できる機会となったことだろう。今回はイノシシにまつわる思い出話となった。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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