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どの業界でも、その業界内で通じやすい特有の言葉や表現がある。「ゲンセツ」と言えば「現場説明会」のことであり、刑事物の映画でおなじみの「ガサイレ」は「家宅捜索」のことである。これは「さがす」の逆さ読みから来ている。パソコンの「取り扱い説明書」は大体が分厚いものだが、「トリセツ」と短く呼んでいる。「妻のトリセツ」とは、何とも絶妙な表現をしたものだと思うが、仕様書である「スペック」から、若い世代の人たちが人物評価に関して「スペックが良い」などと経歴を表現している。品のない表現で、これはいただけない。
私が属している学問分野である地理学、地質学などの地学系の学問分野では、学術研究のための実地調査のことを、昔から「ジュンケン」と呼んでいる。この分野を学んだ卒業生たちが学生時代をなつかしむのも、この「ジュンケン」である。現地で寝泊まりし、同じ釜の飯を食い、研究テーマに共同で取り組む。実地調査方法を体得し、人間付き合いも深まる。「ジュンケン」とは何のことかと言えば、漢字で「巡検」と書き、英語ではフィールドトリップやフィールドワークのことをいう。これは、現地を巡り、観察し、観察結果をとりまとめ、何らかの知見を得ようとする試みのことである。巡検の段階としては、事前準備、実施、事後整理の三段階がある。現地へ行くための事前の準備としては、テーマ、コース、時間配分、見るべきもの、聞き出したい事項、用意すべき道具など、いろいろある。
私が今関わっている自治体の仕事は、手続きなどの日常業務がまず思いつくが、将来計画を立て、政策形成を図ることも大事である。とりわけ、私の研究所では、縦割り行政を補う意味で、横断的で未来志向の政策研究を実施している。基礎データの整備、各部署共通の人口推計、テーマ志向の研究プロジェクト(現在は公民連携をテーマにして取組中)などがある。計画策定や政策形成の基礎として、巡検を通じての現地、現場の実態理解は欠かせない。地域特性の把握は、都市・地域を検討する際の基本なのである。
最近、インターンシップの学生のために二つのコースを設定し、巡検を実施した。そのうちの一つである<四谷コース>は、消防博物館を見てから四谷三丁目の交差点をスタートしたが、四谷大木戸、内藤新宿などは江戸時代に重要な場所だった。これらは『江戸名所図会』にも掲載されている。昔の花街であった荒木町を散策したが、昭和の初めには置屋86軒、芸者数252名、料理屋13軒、待合63軒もあったという。昔は滝と池があり、武蔵野台地の地形と地下水の存在を確認できる。当時の三業地、歓楽街として盛んだったことが分かる。
その後、お岩稲荷の田宮神社、台地上の寺町、アニメで有名になった須賀神社(外国人客多し)、内藤新宿の設置に尽力した高松喜六の墓などを訪ねた。このような人たちがいたからこそ、今日の新宿の繁栄がある。巡検の仕上げは休憩を兼ねた昼食である。とくに暑い日などは、休憩や水分の補充が欠かせない。ポルトガル料理のランチを食べながら、今回の酷暑の中の2時間半の振り返りとなった。各人が興味を持った事柄が異なるのも面白い。
ある時に巡検のことを話題にしていたら、私のクラスメートで、長いこと旅行業をしていた友人が話してくれた。「我々旅行業界では、旅行には、旅行前の楽しみ、旅行当日の楽しみ、そして旅行後の楽しみの三つの楽しみがある」ことをうたい文句に常々言っているとのこと。身近な地域の巡検を大いに楽しみたいものである。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
