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日常の光景は、普段あまりに見慣れていることから、うっかり見過ごし、記憶もはっきりしないことがよくある。260年以上続いた江戸文化を懐かしんで、明治時代(1868-1912)の後半からは、江戸時代の生き残りの人たちによる文章が数多く残されている。後の世に生まれた私たちが、それらの著作を通じて、江戸東京の過去を知ることができるのは楽しいことである。過去なくしては現在も未来もない。
菊池貴一郎の『江戸府内絵本風俗往来』が刊行されたのは、明治38年(1905)のことである。菊池は1849年生まれなので幕末の江戸を体験しており、その書物の記載内容は興味深いものが多い。しかも、彼は四代目広重とされる人物で、江戸の雰囲気のある絵が多数掲載され、文章内容を理解するのにも都合がよい。
一例として、「じゃんけん」の項目を見てみよう。書中には、<ぢゃん拳>と記載されている。子供から大人まで、じゃんけんはよく使われる決め方の一つで、お馴染みのものである。当時どのようなものだったのか。まず、じゃんけんに入る前の掛け声をみてみよう。現代ならば、「ジャンケンポン」という所だが、当時は右手を握り、「チイ リイ サイ」と発声している。この「チイ リイ サイ」なる掛け声がどこから来ているのか不明だが、何となく中国語っぽく聞こえる。
そして指の握り方であるが、五指を広げた「パー」の「紙」、五指を握った「グー」の「石」、この二つは現代と同じである。ところが、「チョキ」の「鋏」の示し方が興味深い。現代ならば、人差し指と中指で「鋏」(裁ち鋏)を示し、残りの三本指を握るが、江戸時代は、親指と人差し指で「鋏」を示し、残りの三本指を握っている。つまり、江戸時代の「鋏」は「握り鋏」(糸切鋏)を表現している。
じゃんけんついでに、じゃんけんの場面が出てくる落語といえば、「らくだ」がある。この演目は、元来は上方落語であり、「らくだの葬礼」といっていたものを、明治時代に、三代目柳家小さんが大阪から東京へ持ち込んだ噺である。らくだの仇名がある馬(うま)さんが長屋で亡くなった。馬は長屋の家賃も払わず、不良店子だったが、馬の兄弟分は曲がりなりにも葬式ぐらいは出してやりたいと考えた。そこに、出入りの紙屑屋がやって来たので、兄弟分は何かと葬式準備の仕事を紙屑屋にさせる。紙屑屋と兄弟分、大家、長屋の連中などの軽妙なやり取りがあり、シュールな内容である。何せ死人から始まる落語なのだから。
かつては、馬から何でも買わされていた紙屑屋と馬との間でやり取りがあり、買うか買わないかをじゃんけんで決めようとする場面がある。立川談志(七代目)による落語では、以下のような調子で演じられている。
・・・
馬 「たくわんの石を買え」
紙屑屋 「買えませんよ」
馬 「じゃ、じゃんけんで決めようじゃないか」
(馬がパー、紙屑屋がチョキを出す)
紙屑屋 「オレはチョキ、あんたはパー。オレの勝ちだ」
馬 「何を言いやがる。俺が五で、お前が二だから、俺の勝ちだ」
・・・
落語の世界では、勝手にじゃんけんのルールを変えてしまっている。馬鹿らしい上に、飛んでいて楽しい落語である。因みに、談志は、チョキを裁ち鋏で表現していた。観客からみて分かりやすいからだろうか。
テニスのコイン・トスのように、表か裏かの二者択一なら単純であるが、「あいこ」である引き分けを含むじゃんけんは、改めて面白い決め方だと思う。厳しい外交交渉において、会議の冒頭に、どちらから発言するかで大いにもめて、会議が開催されない場合があると聞く。じゃんけんから、決め方の決め方まで含め、少しばかり興味を持ったので、今回はじゃんけんをテーマにご紹介した。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
