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そんな最中に、石岡瑛子の回顧展があったので出かけたというわけである。石岡瑛子(1938-2012)は東京芸術大学を卒業し、資生堂の美術デザインをスタートに活躍した。世代により受け止め方は異なると思うが、私の世代に強い印象を与えたのは、1960年代の資生堂のポスターを始めとする一連の広告デザインである。モデルに前田美波里を起用したポスターなどは、貼りだすとすぐに取られてしまうほどの人気だった。さらには、パルコや角川書店におけるアフリカ女性などのポスターや広告デザイン、雑誌や書物のブックデザインなどを手掛け、70年代に入ると海外に進出し、80年代はニューヨークを拠点にして世界的に活躍するようになった。そして亡くなる直前まで創作意欲が衰えることはなかった。
活動の領域は広くて枚挙に暇がないが、映画「MISHIMA」の美術監督、ジャズ界の帝王マイルス・デイヴィスの「TUTU」のアートワーク、日本発のオペラ「忠臣蔵」の美術監督、オランダ国立劇場でのオペラ「ニーベルングの指環」のコスチューム・デザイン、コッポラ監督の映画『ドラキュラ』の衣装デザイン、シルク・ド・ソレイユのコスチューム・デザインなどが有名。そして映画『ザ・セル』のコスチューム担当、美術監督としてその実力をいかんなく発揮した。ビヨークのミュージックビデオ「COCOON」の身体表現を特徴としたビデオも評判になった。一つの分野にとどまる所がなく、作品全体の表現者といってよい。形のないアイディア段階から、人々を魅了する形に仕上げるデザイナーの真骨頂である。
デザインに限らずどのような事柄でも評価はむずかしい。それは評価基準が、人それぞれだったりするからである。デザイナーの評価は、各種の良質な賞の授与から知ることが出来る。彼女の場合は、海外の主なものでもアカデミー賞、カンヌ映画祭芸術貢献賞、グラミー賞、ニューヨーク批評家協会賞などの受賞があり、国内でも優秀な賞の受賞歴が多数ある。デザイナーとしてすばらしく輝かしい業績である。これらの業績により、彼女の名前は世界的に知られるところとなり、世界からの依頼は途切れることがなかった。
オリンピック関連の仕事としては、ソルトレイク冬季オリンピック大会における選手用のユニフォーム、北京オリンピック開会式アトラクションにおけるコスチューム・ディレクターとしての仕事などがある。一般の人でも、一度見れば思い出せるほど強烈なデザインである。
回顧展では、高校時代に制作した絵本、雑誌の表紙デザインや彼女の制作過程をうかがえる創作ノートや添削・修正の指示など、普段なかなか目にすることが出来ないものが展示されていた。のびのびと、かつ整ったその字体は、彼女の性格と自信とを示すかのようである。それにしても、かくもすばらしいコレクションはどのようにして保管維持されていたのかが気になる。映画関係は芸術科学アカデミー・アーカイヴが、そしてその他の資料については、アメリカのUCLAの図書館が収集している。アーカイヴを大事にする国アメリカだけのことはある。現物があり、それをじかに観察できることは重要である。細部にわたる制作過程を把握し、後の世に再現可能となるからである。
彼女の自伝的著作である『私デザイン IDESIGN』(講談社)をあらかじめ読んでいたので、活動内容についてはそのほとんどのことを知っているつもりだった。しかしながら、実物の展示を見るとその印象はまた格別である。展示会ガイドのパンフレットが、展示内容について、簡潔に要領よくまとめている。展示担当学芸員と評伝の著者との対談も開催期間中はネットで動画配信されている。石岡瑛子という優れたデザイナーを理解する上で、深い話になっており興味深い。とりわけ膨大な作品の著作権使用の許諾は大変だったようだ。
鑑賞後は、近くのコーヒー店に立ち寄った。この辺りは、かつては木場の材木店が多数立ち並ぶ地域だった。50年ほど前に新木場に移転し、筏のある貯木場も埋め立てられてしまったので、今日ではその面影がほとんどなくなってしまった。材木店は、材木を扱う関係から、天井が高い。天井が高いと、背の高いコーヒー器具を設置することが出来るので都合が良い。そこで、近年では、話題のコーヒー店が数多く出店しつつあり、若い世代が足を運ぶようになった。
美術館の維持、発展のむずかしさ、収集品の保存、研究、展示、等々、美術をめぐるさまざまな課題などについて考えを巡らし、おしゃれなコーヒー店のおいしいコーヒーを味わう晩秋の一日となった。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
