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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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ソーシャル・ディスタンス(社会距離)
2020/10/30
今年世界中を席巻しているのがコロナウィルスである。一向に下火にならず、各国が防戦に努めている。このコロナ禍で、予想外に一般化し定着した言葉がいくつかある。
メディアで飛び交う用語には、私がかつて人、もの、金、情報が空間をどのように普及していったかという空間伝播過程の研究で学び馴染んだ用語も多い。そんな中、「ソーシャル・ディスタンス」(社会距離)もしくは「ソーシャル・ディスタンシング」(社会距離をとること)なる、あまり耳慣れない言葉が世間で一般化したのには驚いた。

文化人類学者のエドワード・ホールは、人間が空間をどのように活用しているか、というテーマに取り組んだ初期の研究者である。彼は、人間の空間利用に関する研究を、彼の造語で「プロクセミックス」(近さに関する学の意味)と名付け、いくつかの類型を提示し、成果物として『かくれた次元』(みすず書房の邦訳書あり)という魅力的な本を刊行した。それは次のような分類だった。

・インティメット・ディスタンス(密接距離約0-45cm) 家族や恋人など、ごく親しい人が抱き着いたりするほど密着した距離のこと。
・パーソナル・ディスタンス(個体距離約45cm-120cm)  普通に会話する距離。
・ソーシャル・ディスタンス(社会距離約120cm-350cm) 知らない人や公的な場面で会話する程度の距離間隔。
・パブリック・ディスタンス(公共距離約350cm以上)  講演や演説などの際の公的な距離間隔。

これらの距離感はおのずと出来上がっていた秩序であり、それを学者であるエドワード・ホールが見出し、分類したということである。ところが今回のコロナ禍では、意図的に「ソーシャル・ディスタンス」なる社会距離をとらないと、感染の可能性が高まるので用心しましょうということである。ある種の「強いおすすめ」である。各人が協力してくれれば、感染の度合いも増えないで済むが、協力が得られなければ感染状況はますます悪化する。

この個人的な距離の取り方を例にとると、湿度などの気候が影響しているのかもしれないが、ラテン系の人々は密接な距離を取りハグし合い、一方でアジア系の人々は少し間隔を確保する場合が多いことが分かっている。コロナ患者数の地域的差異の要因の一つではないかとの推測もある。これら人々による距離感の比較文化論は興味深い。

現在、約1.8mのソーシャル・ディスタンスを取りましょう、というのが世界的な標語になっている。それは、上述の距離の分類を参考にしていると思われる。マスクの使用は、飛沫感染の防止に役立つし、うがい・手洗い・消毒は、日本人ならば子供の頃から身についている。これら身近にできる行動が、インフルエンザの感染防止にも役立っている事例が、世界各国で報告されている。
有効なワクチンが開発されるまでは、身近にできる所からやるしかない。いずれにせよ、医療はじめ関係者のご努力には敬意を表したい。



(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)

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