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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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たのしみは
2022/02/26
あまり世間に知られていなかった人でも、あることをきっかけに、突然有名になる人がいる。福井が生んだ幕末の国学者で歌人の橘曙覧(たちばなあけみ 1812-1868)はそのような人物の一人である。

ある人物が橘曙覧を絶賛した。「趣味を自然に求め、手段を写実に取りし歌、前に万葉あり、後に曙覧あるのみ」、「歌人として実朝以後ただ一人なり、・・・彼を賞賛するに千言万語を費すとも過讃にあらざるべし」、と言ったのは近代俳句を確立した正岡子規である(『橘曙覧全歌集』解説、岩波文庫より)。さらに、比較的近年に至っては、1994年に当時の天皇・皇后両陛下が訪米した際に、大統領主催の歓迎会が開催された折、ビル・クリントン米国大統領は歓迎スピーチで次の和歌を紹介した。

たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時
(It is a pleasure when rising in the morning I go outside and find a flower
that has bloomed that was not there yesterday.)

ゲスト国の文化に敬意を表して、このような和歌をさりげなく歓迎挨拶に入れ込むのは、スピーチライターの腕の見せ所である。大統領主催の特別な機会なので、日本でも一気に知られるところとなった。この和歌は、橘曙覧の『志濃夫廼舎歌集』(しのぶのや)の中の「独楽吟」に掲載されており、「たのしみは」で始まり、「~する時」で終わる和歌52首からなっている。和歌の内容は日常の暮らしに触れたものばかりで分かりやすく、特に解説することもない。以下にいくつかの和歌をご紹介する。ネットや文庫で、52首を読むことが出来る。

たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時
たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
たのしみはそぞろ読みゆく書(ふみ)の中に我とひとしき人をみし時
たのしみは物識人(ものしりびと)に稀にあひて古しへ今を語りあふとき
たのしみはいやなる人の来たりしが長くもをらでかへりけるとき
たのしみは意(こころ)にかなふ山水のあたりしずかに見てありくとき

それぞれの和歌を通じて、家族、友達との団らんや、読書や散策の楽しみなど、日常の楽しみが伝わってくる。橘曙覧は清貧な暮らしをしていたが、日常の暮らしをたのしさとして受け止め、和歌の形式に乗せ自然体で表現した。コロナ禍では、この日常の楽しみが大分奪われていることを改めて痛感する。

「独楽吟」52首の中から、自分が気に入った和歌だけをいくつか取り出した上で、声に出してみてもよい。和歌の心得の有無や、和歌創作の腕前に関わらず、橘曙覧を真似て和歌づくりに挑戦するのも楽しい。素人である私もやってみたがぼろが出るばかりで、恥をかくこと間違いなしである。読者もどうぞ挑戦してみてください。

たのしみは異なることを組み合わせ新たな意味を見いだせし時
たのしみは食後に志ん生鑑賞ししばしうたたね夢みし時




(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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