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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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あとみよそわか
2021/02/26
明治の文豪幸田露伴は、博識でかつ秀でた文章表現力で知られた作家である。彼の遺伝子は、確実に子孫である娘の幸田文、孫の青木玉さん、そしてひ孫の青木奈緒さんの四代に伝わっている。四代にわたり創作された諸作品は魅力的であり、多数の読者を獲得している。

それらの作品は、私たちの文章作成のよきお手本にもなっている。露伴とのやり取りは、珠玉の随筆にみられ興味深いものが多い。今回話題として取り上げる「あとみよそわか」は、国語の教科書にも掲載されており、幸田文『父・こんなこと』の随筆に登場する。聞いただけでは最初は何の事だかよく分らなかったが、よく読むとその意味がなるほどと分かる。

拭き掃除の終わった娘の文に対して、父親の露伴は「あとみよそわか」と言い放った。どういう意味かというと、いったん振り返って、自分の行いに不備がないか、抜かりがないかチェックせよというものである。

「あとみよそわか」を、ひらがなではなく、「後見よ 蘇婆訶」と漢字で書くとその意味が分かりやすくなるかもしれない。「そわか」は、般若心経などのお経の最後に出てくる呪文で、成就する、栄えることなどを意味するおまじないの言葉。よって、「あとみよそわか」は、振り返って再確認すればうまく行くの意味になる。子供たちへのおまじない言葉として効果的である。さすが露伴、飛び切りの教養人である。

日常生活にもこの種の標語的な表現はよく使われる。例えば、栄養バランスの良い食を実現するために、「まごわやさしい」などという言葉がよく知られている。
<ま> 豆類
<ご> ごま
<わ> わかめ(海藻類)
<や> 野菜
<さ> 魚
<し> しいたけ(きのこ類)
<い> いも類

私も、ある時子供たちにまじない言葉を作ってあげたことがある。出かける際に、持ち物を忘れないようにするためであった。それは、5つの持ち物の頭文字を示す次の言葉である。

「さてときけ(聞け)」

<さ> 財布
<て> 定期券
<と> 時計
<き> キャス(ICカード入館証)
<け> 携帯電話

上記5つのものは、今ではすべてスマートフォン1台で済ますことができる。現代の標語を新たにつくるとすれば、「すもじゅう」もしくは「SMJ」とでもいうのだろうか。「スマホ持ったか、充電したか」の短縮形である。私がかつて子供たちに作ってあげたまじない言葉は、古き昔の携帯電話の時代の産物であることを物語っている。昭和どころか平成も遠くなりつつあるようだ。



(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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