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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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うちわ話
2021/06/29
コロナウィルス禍が継続中である。人々の移動、集まり、おしゃべりなどは、多くの人々が日常的に必要とし、楽しみにしていることである。ところが、これらの行動が奪われる特異な期間が、昨年初めから一年以上も続いている。しかも世界中に猛威を奮っている。感染症の怖さである。そんな折、兵庫県はコロナウィルス対策にうちわ(団扇)が効果的だと考え、県内の飲食店約16,000軒にうちわを30万枚無料配布し、いわゆる「うちわ会食」を奨励することを計画したとの報道があった。今年の四月のことだった。ところが、うちわの使い回しは危険だ、効果が疑問だ、等々の批判があり計画は中止になった。もっと抜本的なコロナ対策を打ってほしいというのが、住民の本当の声なのだろう。

同じうちわでも、使いようでは効果的な場合がある。一昨年の夏のことだった。必要な公的書類を入手するために、地元の区役所に出かけた。そこで、自治体職員による工夫を経験した。申請書に記入し窓口に提出すると、自分の待ち番号が記されたうちわを手渡されたのである。建物内は冷房が効いてはいたが、高めの気温設定なので、うちわで風を送ることは暑さ対策に効果的である。簡単なことではあるが、職員の工夫に感心した。「良いアイディアですね」と窓口の職員に言ったところ、にっこりとうれしそうだった。最近の自治体窓口は、昔と比べると、その応対も随分親切丁寧になったと思う。

一昨年の夏は効果的だったこの「うちわ待機作戦」も、コロナウィルス対策としては、接触を避ける上からは不適切な対応策といわれかねない。コロナと共にする時代対応を新たに考えださねばならない。難しい時代になったものである。

うちわといえば、気にかかる浮世絵がある。それは、浮世絵界のスター東洲斎写楽にまつわる話である。名プロデューサー蔦屋重三郎が売り出した写楽は突然現れ、人気者になり、そして忽然と消え去った謎の浮世絵師として有名である。活動期間は1794年から翌年にかけての約一年半で、「写楽は何者か」という探求は多くの知識人の関心を呼び、本も多数刊行されている。それら作品は、どれも推理小説のようで面白い。関連書も数十冊には上ることだろう。私も関心があったので、かなりの冊数を手にして読んでみたことがある。私は、「俗称斎藤十郎兵衛 江戸八丁堀に住む 阿波侯の能役者」(斎藤月岑『増補・浮世絵類考』1843年刊行)の説を採用するのが自然で有力だと考えている一人だが、未だに論議は尽きない。

それらの本の中に、栄松斎長喜『高島ひさ』(寛政三美人の一人)と題した浮世絵があり、その浮世絵の中の画中画として、写楽が描いた絵のうちわがあった。写楽の絵は、「四代目松本幸四郎の山谷の肴屋五郎兵衛」と題したもので、左右反転した形で描かれている。この絵の存在により、栄松斎長喜と写楽とは同時代人ということもあり、何らかの交流があったのではないかと推測されている。

うちわを描いた川柳となれば、次のものが有名である。
<寝ていても団扇の動く親心>
短い字数の中で、親の気持ちの機微をうがち、情景を的確に表現している。川柳もなかなかやるなと思う。



(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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