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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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もう一つの戦い
2021/07/29
東京オリンピック・パラリンピック大会が始まった。本来ならば昨年開催予定だったので、「Tokyo2020」の表現が使用されている。前回の五輪大会が東京で開催されたのは、今から57年前の1964年のことだった。当時は高度経済成長時代と呼ばれた時期に相当し、東海道新幹線、首都高速道路の建設など、斬新かつ勢いがあり、未来を切り開く開発が多数実現した。

今回はコロナ禍での大会開催となり賛否両論がある中、さまざまな問題が発生し論議を呼んでいるのは、皆さん周知のとおりである。最新の映像技術や伝達技術のもとで、世界の超一流選手の熱戦を連日テレビ等の媒体で楽しめるのは、贅沢であるとともにありがたいことである。世界トップクラスの選手たちの戦いぶりはすばらしく、勝ち負けを超えて感動的である。

大会は主として東京ならびに首都圏で実施されているが、いくつかの競技は首都圏以外でも行われている。福島県がソフトボールや野球の開催会場になっているが、災害からの復興というのが五輪誘致の際のテーマであったことによる。五輪の理念が平和の祭典であるのは言うまでもないが、現下はコロナ禍における大会開催となっているので、競技における戦いに加えて、感染症の克服という課題も加わった。

私も競技そのものを毎日楽しんでいるが、私の個人的な関心に、大会会場の一つである「海の森水上競技場」(ボート/カヌー)がある。この土地は、元来が東京湾の海であり、大森沖のノリ養殖場であった。その後ごみ処分場として埋立事業が始まったのは1970年代のことである。今日では、人工島の「中央防波堤埋立地」となり、約500ヘクタールの都有地となっている。この土地の帰属を巡っては、大田区、江東区を始め、関係する都内五区の間で、1973年頃から約40年間紛争の種になっていた。仮に土地を所有するようになっても、区に固定資産税収入が入るわけではないが、広がる土地の活用により、物流拠点の充実、スポーツ施設などによる人流の増加、その他の地域開発効果が期待できる。

2002年に三区が主張を取り下げたことにより、大田区と江東区の二区間の協議となった。当事者同士ではなかなか解決できず、調停委員会の出番となった。東京都の自治紛争処理委員会の調停案は2017年10月に出たが、その内容は、大田区13.8%、江東区86.2%の帰属とする調停案であった。ところが、大田区の区議会は調停案を拒否し、裁判に持ち込もうと決議した。都内の自治体が土地帰属問題で訴訟を起こすのは初めてのことらしい。一方の江東区は、調停にゆだねる措置を取ったのに、その調停案に応じないのは信義に欠けると考えて、同じく不満である。

大田区による訴訟にもとづいて東京地方裁判所で審理したが、その判決結果は2019年9月に出た。その内容は、次の通りであった。
<大田区20.7%、江東区79.3%の割合の土地帰属とする。五輪会場の区域は、すべて江東区に帰属し、港湾施設の整備が進む区域は大田区に帰属するとした。>

調停案ならびに判決の基準となった主な理由は次のような事項である。
・各区の海岸線から等距離となる中間線を境界とするのが基本である
・土地利用状況を歴史的・社会的に勘案して、土地の一体性を考える

境界を巡る紛争は、隣地間の地境問題から国家間の国境問題までその空間レベルも異なり、多種多様に多数存在する。国境問題を考えただけでも、河川・ダムの影響、港の確保、自然資源へのアクセス、海空の圏域、その他領域や境界を巡る紛争は絶えることがない。私の頭の中で、今後の勉強材料がちらちらしている所である。

今回取り上げた話題は、ボートやカヌーといったスポーツが楽しめる会場となる人工島を巡る土地帰属の戦いの上に、五輪のスポーツ競技が展開しているというものであった。人生をかけて練習に励んだ選手全員の健闘を称え、今後の活躍を心から祈っている。



(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)

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