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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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あれ何と言ったかな?
2021/11/29
言葉は世の中の変化とともにある。新しい言葉が登場し、これまであった言葉がなくなってしまうことは自然なことである。日常生活でよく目にはしているのだが、何と呼ぶのかは分からない、ということがしばしばある。今回は、「あれ何と言ったかな?」となる題材をいくつか取り上げ話題にする。言葉が分かると世界が少しだけ広がり、人との会話も弾むきっかけにもなるので知っていると便利である。以下、問いと答えを示す。

【問】 和室の部屋には床の間があり、生けた花や掛け軸がある。その掛け軸の下端には、房付きの陶器製の丸い球などが安定のために用意されているのを目にする。あの丸い球を何と言っただろうか?

答えは「風鎮(ふうちん)」である。掛け軸安定のためのもので、文字通り風を鎮める役目をしているし、言葉の響きもきれいである。鎮を使った言葉に文鎮、重鎮などがある。因みに「禅鎮(ぜんちん)」という言葉があるが、これは座禅の際に、眠気対策として頭頂部に乗せる円形のものの名称である。天台大師像の絵などで見ることができる。
<風鎮は緑水晶鉄線花 高浜虚子>

【問】 日本料理店や旅館などの玄関入口に、円錐形に塩が盛られている。これを何というのだろうか?

答えは「盛り塩」または「口塩(くちじお)」である。清めと客を迎える縁起物である。相撲でも土俵に塩をまく。塩は清めの役目を果たしている。
<居酒屋の盛り塩流す雷雨かな 萩原渓人>

【問】 寺院などで、玄関に魚の形をした板と木槌がある。あの魚の形をした板のことを何と呼ぶのだろうか?

答えは「魚板(ぎょばん)」または「魚鼓(ぎょく)」である。禅寺の食堂や庫院にあり、食事の時刻を知らせるためのものである。魚はまぶたがなく昼夜目が覚めているので、修行僧の眠気を戒める意味を含んでいるらしい。また茶事にも用いられる。この魚板が木魚という楽器に変わったとされる。 
<魚板より芭蕉につづく羽蟻かな 飯田蛇笏>

【問】 注連縄や玉串などについているギザギザの白い紙は、何というのだろうか?

答えは「紙垂(しで)」である。紙垂は稲妻を連想させ、邪悪なものを追い払う。相撲の横綱にもこの紙垂はある。 
<杉玉の紙垂は美濃和紙今年酒 石田立子>

【問】 亡くなられた方を追悼する時などに、心の中で祈り黙祷することがよくある。司会者は、初めに「黙祷」と号令をかけるが、終了する際には、何と言ったらよいか?

答えは「お直りください」で、この言葉で黙祷を終えることが出来る。ボクシングやプロレスリングなどのリングで黙祷する際には、ゴングを10回鳴らすことがよく行われる。「テン・カウント」と呼んでいる。
 <納豆汁しばらく神に黙祷す 正岡子規>

【問】 理容店の店先にある赤白青の三色からなる広告灯は何というのだろうか?

明治時代の初期には、ポルトガル伝来の砂糖菓子のねじれ具合から、「アルヘイ棒」と呼ばれていたとのこと。現代ではサインポールと呼ばれているが、これは和製英語である。英和辞典にはバーバーズ・ポールとある。
<黄楽や老舗床屋の回転灯 長田青蝉>

時代と共に生活様式が変わり、言葉や表現も変化を遂げる。世界はますます小さくなり、言葉は次第に似てくる傾向にあるようだ。言葉は私たちの暮らしや文化そのものである。日常見慣れているものでも名称を知らない時、「これ何というのかな?」と問いかけ、毎日の暮らしを楽しみたいと思う。




(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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