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初代若乃花は、身長179センチ、体重107キロと小柄な体にも関わらず、横綱まで昇りつめ、横綱栃錦と共に栃若時代をつくり土俵を盛り上げた。得意技だった「呼び戻し」で大型力士を土俵にたたきつけ、その豪快な相撲っぷりで人気があった。「土俵の鬼」と称された若乃花の著書に、『心技体』がある。心技体が相撲の真髄の代名詞になると考えて書名にしたのであろう。
「心技体」という言葉は、寡聞にして江戸時代の文献で見たことがないので、比較的新しい言葉のように思われる。柔術家の古木源之助は、著書『柔術独習書』(1911年刊行で、国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能)の中で、柔術には「身体の発育」(体力)、護身の用としての「勝負術の鍛錬」(技術)、そして「精神の修養」(精神力)の三つが大切だと説いている。それぞれ体・技・心、つまり「心技体」に当たるのだろう。さらには、それらは相互連関しているので、一つだけを単独に修行、研究するものではないと古木は言っている。
世界の柔道国の一つにフランスがあり、その柔道人口の多さや世界レベルの大会で優勝するなど、柔道の盛んな国となっている。日本からフランスに渡り、柔道を普及させた功労者の一人に道上伯(みちがみはく)がいる。彼の教え子の一人であるオランダのアントン・ヘーシングは、1964年開催の東京オリンピック無差別級柔道で、日本代表の神永昭夫選手を抑え込みで破り、金メダルを獲得した。道上の貢献は大であり、道上の柔道における真髄に関する教えも、「心技体」の充実であった。
この心技体の重要性が強調されるのは、心技体それぞれの要素である精神力、技術力、体力の力をつけることは勿論のこと、この三つの要素がバランスよく働くことが大事である。不世出の横綱双葉山は前人未到の70連勝を目指したが、前頭4枚目の安芸ノ海に負け、69連勝が相撲史上の記録となった。敗者の弁は、「未だ木鶏たりえず」であった。木鶏は、何が起きても物に動じず、泰然自若でなければならないことを意味する。双葉山はまだ修行が足りないと、自分に言い聞かせたのであった。
私はこの心技体の充実は、脳の働きと重ね合わせると分かりやすいのではないかと日頃から考えている。外界の感知機能、論理的な思考機能、イメージを膨らませる感性機能、身体の運動機能、そして全体を統括する中枢機能などの働きである。脳の働きが精神、技術、身体などの動きと連動しているように思われる。ご自身の仕事や活動を心技体の側面から光を当てて、バランスをとってみてはいかが、というのが今回のコラムの趣旨である。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
