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(2013/07/01)
私には、学問上の師匠が二人いる。お一人は学部時代からご指導を受けていたT先生、そしてもうお一人は、私が大学の教壇に上がるようになってからお世話になったI先生である。過去形になっているのは、残念ながらI先生は20年ほど前に亡くなられ、T先生は今年の3月に亡くなられたばかりだからである。優れた二人の師匠を亡くしてしまったので、不肖の弟子としては大変さびしい気持ちである。今日は、I先生にまつわるお話をご紹介する。
I先生は、四月の新学期になると大学の専門課程に入ってきた三年生相手に、学科の主任教授として開講の挨拶をするのが恒例だった。その挨拶は例年ほぼ同じ内容なのであるが、大変含蓄に富んでいた。どのようなものであったのか。
「諸君、今日からは勉強は止めてください。学問は強いられてやるものではなく、好んでやるものです。これからは大いに学問を楽しんで下さい。勉強ではなく、楽しむための学習をしてください。学びて亦楽しからずやというではありませんか」
これで話が終わりだと呑気な気分でいたら大間違いで、その後がある。
「でも、楽しむためには、能力が必要です!」
「能力」という言葉を聞いて、学生たちはドキッとする。「そんな能力があるのかな」との不安からである。
能力には先天的なものと後天的なものがあるが、その多くは学習して、あとから獲得した能力である。人間とは学習する動物である、と言ったのが誰だったか忘れてしまったが、私たちは試行錯誤を通じて学んでいくのである。よって、間違いや失敗を恐れてはいけない。その間違いや失敗を通じて、学ぶかどうかが人間形成で大事な所である。その意味からすると、あれをやってはダメ、これをやってはダメとするよりも、とにかくやらせた方がよい。やってみて大いに間違えればよいのである。人間間違えて学ぶのである。人間は学ぼうとしなければ、残念ながらそれまでであると受け止めるしかない。
受験に失敗する、職業選択に失敗する、結婚に失敗する、仕事に失敗する、等々、人生失敗の連続である。野球で三割打者と言えば優秀な打者と言えるが、70%はしくじっているということである。失敗するということは、何か目標があって、試みてはみたが、目標が達成できなかっただけのことである。別の観点からは、その失敗が何かの役に立つかもしれないのだ。なかなか適した職が見つからずに数十の職業体験を活かして、かなり年齢が高くなってから一人前の作家になった人もいるし、運悪く勇み足で刑務所に入れられた人でも、その体験を活かして小説を執筆し、直木賞作家になった人だっている。
学問でも、仕事でもそうだろうが、人生を楽しむためには能力が必要。能力をつけるためには学習が必要。学習は試行錯誤の連続から何を学ぶかが大切。人生はそんなものなのである。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
