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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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因人成市 (2014/06/01)
2014/06/01
因人成市
(2014/06/01)

中国では、「因人成市」(人が集まり市になる)という俗語があるという。その意味は、人が集まると市ができ、市が集まると街になる、ということである。大分昔になるが、若手都市研究者二人が執筆した中国人の街づくりに関する興味深い本があり、その中で1960年代の台湾の街の光景を風刺した新聞漫画(作者は台湾漫画家の陳弓)が掲載されている。私の好きな漫画の一つでもあり、また商業活動と街の発展を考える上で参考になるのでご紹介したい。

この漫画は8コマからなる。漫画はここに引用できないので、読者は以下の文章から、その光景を想像してほしい。まずは1コマ目から順に見ていく。なお、以下の冒頭の数字はコマの順番を示す。カッコ【 】は、特記すべき事柄の簡単な説明である。
1 住宅と塀の絵。塀には、出店禁止を意味する張り紙が貼られている。【場所と規制】
2 塀の前で、地べたに座った男が籠に入った果物を座売りしている。【売り手・商品・販売方法】
3 座売りは次第に繁盛し、いつの間にか屋台店の食べ物屋になっている【立地条件】。通りがかりの警官が、この掲示が見えないかと店の男に注意している。【しぶとさ】
4 屋台店はより大きくなる。出店禁止の掲示も屋台の裏に隠れて見えなくなってしまっ
たので、今度は警官は気付かずに見逃してしまう。【既成事実】
5と6 屋台店もそのうちに小さな軽食堂になる。【発展】
7 軽食堂は4階建の立派なビルになり、この店の主は4階で左うちわと相成る。【成功】
8 4階の自分の部屋から下を見下ろすと、何と別の男が座売りを始めている。まるで昔の自分を見るように。【歴史は繰り返す】

著者たちによれば、「昔から中国の商人たちは、自分の店の前に立つ露店を許す習慣がある」とのこと。不法には違いないが、街の活力の一端を示している。人が集まりそうな所に店を出す。店があるから人が集まる。人が集まるから店も繁盛する。以下プラスの連鎖反応が続く。まるでマーケティングの基本要素と言われる4P(商品、流通、価格、プロモーション)のオンパレードである。

都市は多様な人々が集まり活動することにより成立する。人々が集まるためには、その誘因となる力や魅力が必要である。英語では、アトラクティヴネスというが、その意味する所は、吸引力であり魅力である。何を持ってビジネスの強みとするか、そして何を持って組織や個人の強みとするか。ちょっとしたアイディアを活かしたものに、裏面に広告を掲載することで、コピーが無料になる「タダコピ」、日本料理のツマとしての「葉っぱ」に着目した村おこし、路地裏や坂道を活用した賑わいづくり、等々その例は多い。私たちは、吸引力や魅力となるもの、つまり価値あるものを絶えず模索し、その商品化やシステム化に日夜奮闘しているのである。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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