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2012/05/11
数年前に、新宿区内にある集合住宅の一階か地下室かは忘れたが、いずれかの階が水びたしになったとのテレビ報道があった。テレビに登場した住人は、普段は何の異常もなく生活していたのに、居間への突然の浸水でびっくりしたとのことだった。水びたしになった原因は何か。近所に集合住宅が新設された結果として、地下水の流路が変わり、地下水が被害を受けた建物内に流れ込んだことが分かった。この種の浸水は、ビルディングがびっしり建っている都市型災害の問題の一つである。
大分昔のことになるが、1950年代から60年代にかけての高度経済成長期に、東京下町の工業地区では、工業用水として地下水が大量に汲み上げられた。一度地下水が減少すると、地下水量が回復するまでには時間がかかる。さらには、水の汲み上げにより収縮した土は、小さく固まったような状態になり、地盤沈下を挽回できない。海抜ゼロメートルどころか、マイナス何とかメートルという事態になり、深刻な環境問題(当時は公害といった)となった。これらの問題により、いくつかの地下水揚水規制がその後に実施されたのである。その結果、現在では、地下水量はかなり改善(回復)した。
揚水規制により地下水位が回復すると、地下水位上昇に伴う新たな問題が発生する。ジオフロント社が、地下水位上昇による鉄道駅(上野地下駅と東京地下駅)への影響について、ネット上で報告(2019年)しているので、この調査報告を参考にして以下ご紹介する。約50年前と近年(2015年)との異時点間データ比較によると、東京の下町地区では、1963-1972の地下水位-53mから、2015年の地下水位-5mへと48mも地下水位が上昇した。
地下水位は上昇したものの、構築物である駅への影響は多大である。総武快速線の東京地下駅の場合は、江戸川砂層(-27m)の基礎の上に、地下5階建ての駅舎が建っている。地下水位は、-35m(1972年)が26年後には20m上昇して、-15m(1998年)となっている。あと1m上昇すると床の損傷の恐れがあり、あと2.5m上昇すると地下駅全体が浮き上がってしまう、と関係者はみているという。そこで、1本のアンカーで100トンの水圧に耐えられるアンカーを130本も打った。鉄の錘や鉄の塊を使用した上野地下駅の場合と比べて、三分の一の費用で済んだとのことである。
地下駅などの話題は、地下のことだったので、一般の人が直接目にすることはできない代物だった。東京で地下水が湧水として見られる場所は散歩コースとしてもふさわしい。いくつかの例がある。国分寺近辺では、地形の段差から地下水が出てくる所がある。「ハケ」(国分寺崖線)と一般に呼ばれている場所である。小金井に住んだことのある大岡昇平が、小説『武蔵野夫人』でかなり詳しく描いていることで有名である。また地下水が「滝」として出現する場所もある。王子近辺には、かつて「王子七滝」と呼ばれる七つの滝があった。現在では、名主の滝公園内に、「名主の滝」が唯一現存している。落差8メートルの男滝、女滝、独鈷の滝、涌玉の滝の4つからなる。
都心では、新宿区内にもいくつかある。荒木町はかつて花街として有名だった。ここは、江戸時代には美濃国高須藩主松平義行の屋敷があった所である。その中心には、「津の守の滝」及び「むちの池」の存在があり、絵になる場所だった。その周辺に料亭が増えたのは、この滝と池の存在によるところが大である。
新宿中央公園の北西に熊野神社(十二社)があるが、ここには渓流、滝、池などがあり、太田南畝などの江戸の文人墨客の遊ぶ所となった。新宿区落合にある「おとめ山公園」なども、湧水がつくりだした地形であり、池もあることが確認できる。このような場所は、現代では良好な公園となっている。地下水がたまり、池となった所としては、井之頭池、善福寺池、妙正寺池などが有名である。
これらの状況を理解するためには、東京の地形に関する基礎知識が必要である。東京の人たちは意外に知らないことなのだが、東京の台地は扇状地である。等高線をたどると地形の特徴が見えてくるし、衛星画像でも分かる。東京の西に位置する青梅辺りを扇頂として、東側に傾斜していく。先端部は京浜東北線の西側の崖である。江戸城があった辺りも扇状地からなる台地の先端にあたる。地下を流れてきた水が時々顔を出す。それが、ハケ、滝、池として、私たちの眼に入ってくるという訳である。
土地の姿は、見える所、見えない所での変化の総体として変貌を遂げていく。未知なる大地である土地への興味は尽きることがない。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
