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「是非初心不可忘」 成功や失敗、善悪など、良しとするか悪しとするかは判断のしどころである。とくに、いろいろなことが分かってくる二十四、五歳頃に大切な初心である。
「時々初心不可忘」 人生や芸事のそれぞれの段階における初心が大切である。それまでの経験は失敗に学びつつ、次の段階に向かっていく。その際の初心というわけである。
「老後初心不可忘」 歳を取り老後になっても、それまでの人生経験を踏まえた初心を忘れてはいけない。
よって、必ずしも最初の時の初心だけではなく、いくつかの段階における初心を大事にしようと言うのが、世阿弥の主張するところであったことが分かる。
ところで、世阿弥がものした『風姿花伝』であるが、この書物の成り立ちが大変興味深い。この本の内容は、世阿弥が父親の観阿弥の考えを中心にしてまとめたものである。企業秘密のようなものなので、マル秘扱いだった。観世家に伝来した門外不出の能の技の心得に関する文書は、堀家の蔵に保管されていた。この文書を歴史地理学者の吉田東伍が一冊の書物にまとめたのが『風姿花伝』である。その後、1923年の関東大震災により現物の文書を焼失してしまった。よって、残ったのは元々の文書を印刷した書籍だけとなった。もし、門外不出を理由に書物にまとめていなければ、私たちは能の理論書にして演劇論の本でもある『風姿花伝』を読むことはできず、観阿弥・世阿弥親子による能の極意、ひいては芸の極意を知ることもできなかった。
『風姿花伝』には、「初心」以外にもしばしば引用される有名な言葉が溢れている。「時分の花」(若くて勢いのある時)、「まことの花」(真髄は年齢を問わず)、「秘すれば花」(控え目の価値)などの一連の花による表現は良く使われる。「上手は下手の手本、下手は上手の手本」などは分かり易い。「家、家にあらず、次ぐをもて家とす。人、人にあらず、知るをもて人とす」(継続性と学習し続けることの意義)などの芸の神髄を継承していくことの大切さを主張している。これなどは家業の承継などの参考になる。これらの言葉は、身体知、経験知、暗黙知などにもつながる知の獲得方法についても考えさせられる。分野を問わず、人が体得している技術は、なかなか伝承しにくいものである。先人の秀でた技術や思想を聞き出し、記録し、学び、そして活用する努力が欠かせない。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
